14. 脳の発達
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1. 脳の系統発生と個体発生
現存する動物の神経系を比較してみると、人間の脳がたどてきた進化の道筋を大まかに思い浮かべることができる 脊椎動物の脳を比較してみると、いわゆる高等動物になるに従ってとくに大脳半球の発達が著しいことがわかる https://gyazo.com/ab4b66e1881f3c44c90da42afb216dee
ただし、脳の大きい動物ほど知能が高い、といった単純な関係があるわけではない 動物種間で知能を比較した場合、脳重ランキングが知能の高低順にそのまま対応しているとは考えられない クジラやゾウのほうが人間よりも大きな脳を持っている 身体の重さを考慮にいれて、脳重を体重で割った値を指標として種間比較するのも一つの方法
別の小動物(たとえばマウス)が人間よりも上位に来る 脳重と体重をもとにした期待値の直線からどれだけ離れているかを表す指標
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各点の散らばりをもとに脳重の平均的な「期待値」となる直線を描くことができる
上側にプロットされる動物種: 相対的に脳が重い
下側にプロットされる動物種: 相対的に脳が軽い
人間はこの値が他の哺乳動物よりも大きく、脳化指数ランキングは知能の高低順を比較的よく表していると考えられる
ちなみに、脳化指数が高い動物ほど遊びのレパートリーが広いという関係があることが知られており、遊びには比較的高度な認知機能が必要だと仮定すれば、脳化指数の順が知能の順と概ね一致しているという考えを支持する知見といえる 動物1個体の、受精卵から成体までの発育過程
人間の新生児の頭部の大きさが身体全体に占める割合は、成人よりも相対的に大きい
絶対的な大きさでいえば新生児の脳は成人の脳よりもずっと小さいが、新生児の脳にも外見上は成人と同じように多くの脳溝が見られるし、また神経回路もすでにかなり備わっている 人間の場合、
胚・胎児の1ヶ月ごとの成長過程を身長(頭尾長)と体重(重量)で見てみる 受精後最初の1ヶ月間で、頭尾長は50倍、重量は4万倍にもなる
その次の1ヶ月間の増加率は、頭尾長4.6倍、体重は50倍とやや落ち着く
以降は増加率としては月を追うごとに値が小さくなる
脳の発達
胚の最初の2ヶ月で脳の原型になる組織が次々に形作られ、その終わりごろから、大脳皮質となる部分に神経細胞が現れて、皮質形成が盛んな時期に入る 胚の脳の外観を見ると、あたかも魚類や爬虫類の成体の脳のように見え、われわれは系統発生上の発達を胚や胎児のころに経験しているかのよう 「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉があるが、むろん人間が胚や胎児の時期に魚類や爬虫類の脳を有していたという意味ではなく、見た目からの連想 脳の発達は生後も続く
出生時に約400gである脳重は約3歳で1,000gを超え、成体では1,300~1,400gに達する
出生時にすべて髄鞘化が完成しているわけではなく生後も続いている
2. 脳の神経回路網ができるまで
この隆起部分が上部で融合することにより神経管となる https://gyazo.com/0a99436188a49400d87c13aaf0ab9e75
胚・胎児における神経系の発達段階は6つに分けることができる
はじめのうちはこの前駆細胞は細胞分裂すると、分裂能をもつ2つの前駆細胞になるという対称性分裂を示す やがて前駆細胞の分裂の結果、片方は前駆細胞、もう一方は別の細胞になるという非対称性分裂が生じるようになる 放射状グリア細胞などがその非対称性分裂でまず生じ、そのあと神経細胞が生まれるようになる 脳室帯で生じた神経細胞は脳表のほうに向かって移動し、大脳皮質を形成することになる その際、皮質の深い層から順に神経細胞が配置されていく
すなわち、大脳皮質の6層構造(第I層~第VI層)のうち、最も深いところに位置する第VI層がまず形成され、そのあと新たに生まれた神経細胞はその第VI層の細胞を追い越して第V層を形成する、さらにその後の新生神経細胞は第VI層・第V層の細胞を追い越して第IV層を形成する、というように、後に生まれた神経細胞が先に配置された神経細胞を追い越す形で皮質を形成していく
適切な位置に配置された神経細胞は、様々な種類の神経細胞へと分化する
成長円錐の伸びる方向は、周囲の化学的条件によって決まる
適切な標的の発する物質には引きつけられ、異なる標的の発する物質には反発するということを繰り返して、最終的に適切な標的へと軸索を伸ばしてシナプス結合する 脳組織に存在して大まかに経路を定める因子
誘因性のものと反発性のものがある
ある部位からの拡散によって誘因もしくは反発の機能を持つ化学物質 その結果、過剰な数のシナプス結合が一旦形成されることになるが、以後、シナプスの削減や再配置、細胞死の過程を経ることにより、適応的な神経系が形成されることになる
つまり、うまく標的細胞から神経栄養因子を獲得できなかった神経細胞は変性し、間引かれることになる
神経栄養因子にはいくつかの種類がある
3. 神経回路網の生後発達
シナプスの再配置
脳の神経回路網を形成する最後の段階
神経活動依存性に生じるものであって、出生前にも神経細胞の自発的発火によって生じうるが、生後、生体が様々な経験をすることによって生じるシナプス再配置もある
初期経験が神経系の発達に及ぼす影響を調べる目的で、視覚刺激を剥奪された動物に関する研究 両眼への光刺激を剥脱された動物は、視覚皮質の神経細胞の形態に異常が生じ、たとえば樹状突起の棘が失われたりシナプス密度の減少が見られたりする 幼若期の光刺激剥脱が長くなると、のちに開眼したとしても視覚刺激の検出に異常が見られることがある
神経細胞あたりのシナプス数で見ると、正常なネコの場合には特に生後8~37日における発達が著しいことから(Cragg, 1975)、この時期の視覚経験の有無はネコの脳のシナプス形成にかなりの影響を及ぼすと考えられる 通常、眼球優位性の程度は1~7の7段階に分類され、1が反対側の眼からの入力をもっぱら受ける細胞、7が同じ側の眼からの入力をもっぱら受ける細胞を意味する
多くの細胞は、どちらの眼に光刺激をした場合にも応答を示すため、眼球優位性はその左右の入力バランスにより2~6のいずれかに分類できることになる
通常の視覚経験を得た子ネコの場合、双方の眼球からの入力をうけるもの、とくに眼球優位性が3~4のものが優勢となる分布を示し、いずれか一方の眼からしか入力がないものは割合としてそれほど大きくない
ある限られた時期において光刺激受容の経験に異常があると、神経細胞の応答を引き起こすための神経回路において何らかの変化が引き起こされると考えられる
子ネコの片目が閉じたままになる操作を生後10日目に行い、2ヶ月半後に開眼させた場合、分布は極端な一側性の眼球優位性を示した
サルの場合も、生後2週間で片目を閉じ、18ヶ月後に開眼した場合、眼球優位性の分布にかなり偏りが生じることがわかった(後の実験で、2~3週間の閉眼でも同様の影響が見られたという)(Hubel, 1987) 2週齢になったネコを1日5時間、白黒の縦縞または横縞だけの環境に入れ、1日のうちの残りの時間は個別に暗い場所で飼育するという操作が5ヶ月間続けられた
7ヶ月齢になったとき、第一次視覚皮質の神経細胞のうち数十個の方位選択性をそれぞれの動物で調べたところ、方位選択性の分布に偏りが見られた
ネコが育てられた視覚環境の縞方向と類似の方位選択性を示す神経細胞が相対的に多く、育てられた縞の方向と垂直な向き付近の方位選択性を示す神経細胞は見出されなかった
また、ネコの行動にもそれに対応するような異常が見られ、育てられた縞の方向に垂直な対象物に反応を示さないことがわかった
方位選択性という特徴抽出機構を担う神経回路網の変化が、生後のある時期の経験によって生じうることが示唆される このようなシナプス形成や再配置を引き起こすような経験はいつなされてもよいわけではなく、ある一定期間に限定されることがある
4. 認知症のメカニズム
心理学では、一般用語よりも長期的に成人期や老人期の変化も含めて考えることがある アルツハイマー病に対する薬として、わが国では1999年以降長らく、ドネペジル(商品名:アリセプト)が唯一の承認薬であった ドネペジルはこのアセチルコリンエステラーゼを阻害することにより、アセチルコリンの分解を遅らせて伝達を強める作用が想定されている
2011年になって、わが国で新たに3種類の抗アルツハイマー病薬が認可されたため、計4種類となった
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誤字: ドネベジル→ドネペジル(左上)
NMDA受容体を阻害することによりアポトーシスを防ぐことを狙ったものと考えられる
アミロイド仮説のカスケードを途中のどこかで止めることを意図した医薬品はまだ承認されていない
アミロイドβタンパクを標的とした薬が臨床試験の段階にあり、その結果によっては新たな抗アルツハイマー病薬が登場する可能性がある